ぼくだって、美大に行きたかったーCAMPFIRE代表・家入一真インタビュー

レンタルサーバーサービス「ロリポップ!」や「minne」で知られるペパボを最年少で上場させ、さまざまな事業を立ち上げる起業家として知られる家入一真さん。クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」に込めたクリエイターへの想い、自身の芸大受験のエピソードなど、表現者と経営者の間で揺れる率直な気持ちを聞いてきました。

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経営者として成功しましたねって言われるとなんかピンとこないんだよね。
「こんなはずじゃない。僕はこっち側なはず。」って、表現する側にいたいと思ってしまう。アーティストやクリエイターへの憧れ、嫉妬、コンプレックス、劣等感…今でも、僕はそういう気持ちでいっぱい。僕だって美大に行きたかったんだよ。


  • CAMPFIREのオフィスでインタビューに応じる家入さん。PCはウェブサービスのステッカーでいっぱい。

小さい頃から絵を描くのが好きだった。貧しい家だったから遊ぶおもちゃもあんまりなくて、部屋にひきこもって絵ばっかり描いていたんだよね。
そして、いじめがキッカケとなってまんまと中2で登校拒否になった。親に心配かけたくないから「いってきまーす」っていって、とりあえず家の納屋に隠れるの。バレて無理やり車で門の前まで連れて行かれるんだけど、どうしても学校には入れない。親をがっかりさせちゃいけないなって思いながらも、うまくできなかったのが辛かった。

芸大の試験当日、寝て気づいたら試験が終わってた。

それからずっと引きこもりで家から出られなくて、やることがないから手のデッサンを一日中してた。自分の手くらいしか、モチーフがなかったんだよね。描いてるうちにちゃんと勉強したいなって思うようになって。美大を目指すために大検をとって、福岡のちいさな画塾に通い始めた。

そこにはそれまで会ったことがなかった同じ属性の人たちがいて、ちょっと居心地がよかったな。必要以上に干渉してこない独特な距離感がまた心地よくてさ。そうそう、当時の僕は絵の具まみれのつなぎに丸メガネして頭にタオル。。今だったら「今すぐそれ脱げ!」って言いたいけどそういうカッコしてた。そうやって数年間画塾に通った末に、いよいよ受験をむかえるわけ…。

試験会場の両国国技館近くで宿をとった。試験前日の夜落ち着かなくて散歩してたら、あのジーンズ屋のJEANS MATEがあってさ。「東京には、24時間のジーンズ屋さんがあるんだ!うわぁこれが東京かぁ!」ってテンション上がっちゃって。

結局僕、朝までそこにいたんだよね…。試験当日の朝方、宿に一瞬戻ってうたた寝しちゃって、気付いたら夕方。もちろん試験は終わってた。
「どうしよ。」って思ったけど、どうしようもなかった。
ちょうどその頃親父が事故って借金が発覚したりして、結局美大には行かずに親父の代わりに働き始めたというわけ。

クリエイターに、ずっと僕は一方通行の片思い。


  • 渋谷にあるカフェON THE CORNERも家入さんが立ち上げたもの。

いろんな職を転々としたけど、どれも向いてなくて。「誰かに雇われるの、むいてないのかもな…」って、ある種やむをえず自分で立ち上げた会社がペパボだったんだ。21歳の頃かな。どこかにクリエイティブへの憧れが残っているのか、たくさん立ち上げた事業も、カフェだとかクラウドファンディングだとか、どこかクリエイティブの匂いがするものが多い。常に劣等感がモチベーションになってる。だけど、アーティストやクリエイターからやっぱり嫌われてるんじゃないかなっていう気持ちも一緒に抱えていてさ。アーティストって起業家とか経営者って嫌いでしょ?(笑)なんかずっと片思いしてるような感じなんだよね。

作品に値段をつけるのを怖がらないで。

何かを作る人に憧れがあるからこそ、僕らが場所と仕組みを用意したから一緒にやってみようよ、っていうスタンスでCAMPFIREをやってる。だけど美大を出た子たちは作品をお金に変えることに対する拒否反応がありすぎるような気がする。もしかしたら、美大の中で、作品とは尊いものであり、お金は汚いものだ、なんて教育をしすぎて、シンプルな対価交換を受け入れられなくなっているんじゃないかな。


  • CAMPFIREのアートカテゴリより。毎日さまざまなプロジェクトが資金調達に成功している。


  • オフィスの一角にあるCAMPFIREで支援のお返しとして送付された特典「リターン」の展示。

テクノロジーを否定しても意味ないから、使えばいいんだよ。


昔は芸能人じゃなきゃ番組を配信できなかったのが、今はツイキャスやyoutubeを使ってみんながそれをできるようになった。インターネットはそうやっていろんなことを民主化したんだよね。なかでもクラウドファンディングは資金集めやファンづくりを民主化したもの。アーティストは使えるものは使ったほうがいいと僕は思ってる。テクノロジーを否定しても意味がないじゃない。

僕自身のことを今振り返ってみると、表現をすることはできなかったけど、こうやってサービスを作ったり仕事をしてることが表現なのかなって思ってる。時々、こんなんでいいのかなぁ….って思うことはあるけど…

もしもタイムマシンが今目の前に出てきたとして、芸大の試験当日の朝、眠りこけてる僕が目の前にいるとしたら。

僕、やっぱり起こさないと思うんだよね。起こしたその瞬間に、僕なりの表現である今の仕事も、サービスもなくなっちゃうわけでしょ。
それにさ、寝坊して、試験ダメで、「やっちまったなー」って吸うタバコが、なんともうまかったりするじゃない。そこは今も変わってないよね。

(写真・執筆/出川 光)

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OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。