つくるかたちと向き合う韓国留学。 〜山中彩さん〜

つくる、というひとつの行為はひとりのなかから生まれます。どこにいたって物理的にならば完結できる、あるひとりにとってのつくる、という行為は、その人が別の場所に移った時、そしてその後、どう変わってゆくのでしょう。

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山中彩さん
生まれ、育ちは共に京都。お父様は京都市立芸術大学の木工専攻の教授をされていた過去を持ち、お母様は一般の方々にむけて絵はがき教室を開かれています。そんなつくることを生活の中のおおきな一部としているご両親をお持ちの山中さんは、 現在金沢美術工芸大学を1年休学し、韓国のソウル市にある弘益大学の語学堂にて韓国語を学ぶ日々を送られています。
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おはようございます。あやさんですね?

お話をきくために合流する際、東京駅で合う約束をしたのは待ち合わせの難易度が高すぎたか
な、と、その上当初の待ち合わせの約束を変更しなければならなかったこと、スカイプを通し
て一度しか顔をみたことがなかったことを不安に思っていました。その不安は、見事に元気な
黄色のセーターをまとったあの方があやさんだな、と後ろ姿を見た瞬間の直感に跡形もなく吹
き飛ばされました。

「去年の夏くらいに、あ、これじゃ制作ができない。院に行こうと思ってたけど、それじゃ院にいくのもおかしい。では就職かと言われるとそれもピンと来ない。で、何?みたいな。もう、どん詰まり。どうしようってなってたら周りの人が、これからの人生のほうがこれまでよりもめっちゃ長いし、まだ若いんだから、おちついて焦らなくていいから、一回休んでみれば何か見えてくるよって言われて。」

置かれていた状況に対する不安をどうにかするべく、彼女は留学という道を選んだそう。そうして置かれている状況に疑問を持つことから留学と言う選択肢が生まれた人たちを私は何人か聞いた事があります。未知だらけの土地で生活をはじめる事への不安より、自分のいる状況にわくわくできる未来に対する期待がそれを越えた時、彼らは心を決めるのでしょう。


  • 山中彩さんの作品1(金沢美術工芸大学在学時)

  • 山中彩さんの作品1(金沢美術工芸大学在学時)

彼女の頼んだハヤシオムライスがテーブルに置かれ、てろっとした半熟の卵とその中のごはんにスプーンをいれながら、韓国に行って韓国のごはんが世界一おいしいと思ったけど、日本帰ってきて松屋に行ったらやっぱ日本のご飯のがおいしいってなりました、と口にする彼女。今の状態や基準にこりかたまらず、彼女の中の「いい」の基準が変わる瞬間に対する彼女の素直さが垣間見えました。松屋にその瞬間を認めるところが、またその素直さを際立たせていました。数日後韓国に戻った時、やっぱこっちのご飯最高だ、と笑顔をふりまく彼女をふと想像させられました。


  • 山中彩さんの作品3(自主制作)

細部にまで色と線の工夫がなされた彼女の作品はみる側に、どこをみてくれてもいいよ、私は全体でこれ好きだから、と一枚一枚が在るようで、その在り方が、やはりテキスタイルの好きな方なのだな、と思わせます。その細かさから、彼女にとって、あるメディウムと向き合うという行為は彼女が小さい頃からご両親がみせてきた姿勢のなかから、その生活の風景から身体で学びとったものなのだろう、とも。

「このあいだ台湾にはじめて行って、すごいいい!と思ったんです。韓国の美大生にも話をきいたんで すけど、ここだとまた日本と同じようにどん詰まりになるなと思って、それだったら台湾のほうが全然 面白そうだと思って。今後のことはどうなるかまだわかりませんが、のちのちは台湾へ行き、今度は中国語を学びながら改めてアジアのデザインを学んでみたいな、と思っています。」

初めプロフィールを文字だけで情報として知った時には、そんなゴリッと工芸な分野を、しかもゴリッと工芸な場所である金沢で学んでいる人が韓国という海の外の国でどんな染織をするのだろう、と構えていた私。しかし彼女の口からそれを聞き、「留学は世界を広げてくれる」と様々なところで聞く言葉を思い出しました。その広がった世界の感覚を身につけたあやさんの、わくわくできる未来への素直な期待が目の前の彼女をきらきらさせていました。

そんな彼女は今、5月に出身地である京都で開催予定の、ご両親との3人展に向けての制作に一番力を注がれているようです。つくるという行為との距離がぎゅっと近い山中家のアウトプットの場は、それぞれのメディウムにのせられる想いが行き交う濃い空間となりそうです。


  • 山中彩さんの作品2(自主制作)

「実はすごいシンプルなことで、好きなひとにちゃんと伝えるみたいな。お互いそのほうがハッピーだな、とおもって。でも例えば自分がもしずっと実家にいたら、それでその環境がすごく好きで両親に愛してます、とかそういうことってなかなか言わないと思うんですよ。気持ちをストレートに伝えられるようになったな、って。わざわざ今伝えなくても、となりそうなところでも、明日もしなにかあったら伝えておかないと後悔するじゃん、みたいな。」
 
楽しむことに素直でいる方法を彼女はあちらで見つけたのでしょう。一度何かを離れるという勇気の要る行為を経て、これから彼女は彼女にとって未知のつくるかたちと向き合っていきます
台湾で、たくさんあやさんのフィルターで素敵な世界を吸収してきてください。そして次お会いできる日に、そのときの今のあやさんのお話をきけること、たのしみにしています。ありがとうございました。

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STUDENT WRITER

川口あかね / Akane Kawaguchi

人と人の間づくりが得意な人になるため、日々言葉を練習しています。 好きなものはくもり空と手紙。 東北を自分ごととして捉えるきっかけづくりを行う団体、サイントを運営。