つくることと、その続き 〜Vol.001 中村 麻由美さん【第1話】〜

麻由美さんの印象は大学時代から「本と紙の人」でした。 人の手と、素材が織りなす造形の美しさは、どんな出会いがきっかけで生み出されるようになったのでしょう。美大を目指したきっかけから、製本との出会い、そして現在の活動まで。時間軸を越えても違わぬ想いがそこにはある。そんな気がします。

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中村麻由美さん(造本デザイナー)
1984年新潟県生まれ エディトリアルデザイナーとしてデザイン会社勤務を経て、2011年よりフリーランス、「本と紙を嗜好品として愛でる毎日を送りたい」という自身の願望から、手製本をすることにこだわり、デザイン、紙選び、造形、製本に至るまでのすべてをオートクチュールで請け負う造本デザイナーを始める。
ブックレーベル「Feel so books!」としても活動中。
WEB http://mayuminakamurapw.tumblr.com/
instgram @mayumi_nkmr
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本は、こんなにきれいに、手でつくれるんだ

-まずは定番ではありますが、美大を目指したきっかけについて教えてください。

麻:
 隣近所との関係がとても近いコミュニティで育ったのですが、小さい頃から私はすごく『出る杭』で、もうガンガン頭を叩かれていました(笑)。そんな経験があったから、進路を考える際に、まわりと違うことをやるには今の環境から出たい、まわりのみんながやっている勉強じゃないことをやりたいと思ったし、自分が興味のあることを学びたかったんです。そんな時に、母親が美大の存在を教えてくれたことが主なきっかけですね。
 あとは卒業制作や入学案内で作品をたくさん見たときに「かっこいい」と思ったのが多摩美と武蔵美だったと思います。そして東京の予備校で講習を受けて、東京の美術大学のデザイン学科に入ることになりました。

-学生の頃、一番印象的だったことはなんでしょう?

麻:
「本は手でつくれること」です。
 本って手でつくれる、ってみんな知ってました?(笑)わたしは本を読む・文字を書くことはすごく好きだったので、本やノートにはすごく親しみがあったんですけど、大学で教わるまで本の構造自体にはまったく興味がなかったんです。それで初めて、一から十まで工程を通じて作った本が完成した時に、「なんだこれ!」って思って。(笑)本は、こんなに綺麗に、手でつくれるんだ、と。大学時代一番の衝撃、感動だったんですよね。もう、「うわー!」って(笑)。その衝撃がずっと忘れられなくて、製本の道に行きました。



視点を変える場、ワークショップ。

-麻由美さんのinstagramでは紙の質感、重量から現れる特有の表情を追うプロセスが常に投稿されていますが、本や紙はこんなに美しいんだ、いろんな表情があるんだって気づかされました。

麻:
 製本する過程で、それぞれの紙の表情を、マテリアルとして考察するのが好きです。今後は仕事で「ブックデザイン」もやりたいと思っていますが、装丁というよりも、「紙」をどのように「本」として表現するかに興味が移っていますね。今開催しているワークショップでも、紙やページの使い方について考えて、手を動かすものが多いです。

麻:
 製本の工程の最後には、天地と小口とを「三方断裁」という切り揃える工程があるんですね。本は、同じ形の紙をいろんな方向に折って、束ねて、最後に三方断裁すると完成します。同じ、決められた製本の工程でも、視点を変えるとまったく別の物がその場に生まれます。なのでいつも正面から見ているものを、横から見てみませんかと提案するのもワークショップの場ですね。


 また、フリーランスで仕事をしている私にとっては、やっていることをアピールしないと、みんな忘れていってしまうという怖さが常にあります。だから月1で、自分の活動をアピールするためにワークショップという手段を使っています。

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OTONA WRITER

高橋奈保子 / Takahashi Naoko

ムサビ→NPO勤務。デザインすることは紙の上でも画面の中でもまちの中でも同じ。 まちや、プロジェクトや、そこでつながる人達と、コツコツとワークショップやプロジェクトをつくったり、振り返って記録をしてます。音楽は生きる糧。