広島から世界の定番家具を目指すOA vol.6 株式会社マルニ木工 山中武

世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第6回は、建築家ではなく、家具メーカー株式会社マルニ木工代表取締役社長の山中武さんにお話を伺いました。

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山中武
1970年広島県 生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後 、米国ウィスコンシン大学ミルウォーキー校経営大学院(MBA)修了。三井信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)を経て 2001年株式会社マルニ(現 株式会社マルニ木工)に入社。2008年株式会社マルニ木工代表取締役社長就任。

松葉:「Outsider Architect」の第6回は、株式会社マルニ木工の山中武さんにお話を伺って行きたいと思います。今回は建築プロデューサーの古賀大起さんにもお話に加わっていただきました。

今回主に、以下の3つのトピックについて話を伺いました。
1:零戦の補助燃料タンクや尾翼も手掛けた木工家具メーカー・マルニの木工技術
2:日本の美しい家具を世界に
3:工場見学が会社を変える

1:零戦の補助燃料タンクや尾翼も手掛けた木工家具メーカー・マルニの木工技術

松葉:まずはマルニ木工の歴史ついてお聞かせいただけますか?

山中:マルニ木工の前進である「昭和曲木工場」は、1928年(昭和3年)に設立された木工家具メーカーです。 5年後の1933年(昭和8年)には「沼田木工所」と合併し「マルニ木工株式会社」が誕生しました。創業当初より「工芸の工業化」をモットーに、当時、難易度の高かった木材の曲げ加工技術を取り入れた家具の生産を開始し、量産家具メーカーとしての地位を確立していきました。

松葉:マルニ木工のロゴマークは2つの輪をモチーフにしたシンプルなものですが、どのような意味があるのでしょうか?


  • 山中武

山中:「昭和曲木工場」と「沼田木工所」が合併をする際に採用されたモチーフです。2つの輪は「和」を表して、二つの会社が対等で仲良く一緒にやっていく意味が込められています。また、マルニ木工創立前年の1932年(昭和7年)夏に開催された第10回ロサンゼルスオリンピックの五輪マークにヒントを得たともいわれます。

古賀:第二次世界大戦中は家具の製造は停止され、零戦の木製補助燃料タンクの製造や木製尾翼の開発等を行っていたとお聞きしました。木工で軍需品の製造開発まで行っていたということは、当時から高度な木工加工技術をお持ちだったのだと思います。戦後はどのような展開をされていったのでしょうか?

山中:戦後はいち早く工場レイアウトの再構築、作業系列の見直し、木材の人工乾燥の研究開発や、各種機械の新鋭機の導入などを行い、量産体制の確立と、生産合理化の推進を進めていきました。1960年代後半以降は、より高度な木工加工表現を実現するために、カービングマシン、コッピングマシンの開発を行い、一品生産の高級品であった彫刻入り家具を工場生産による既製家具として、市場の求める価格設定の製造販売を実現していきました。中でも、1968年に販売を開始した「ベルサイユ」シリーズはその独自性と市場適合性で、類を見ない大ヒット商品となりました。

2:日本の美しい家具を世界に

松葉:「MARUNI COLLECTION」についてお聞かせいただけますか?

山中:プロダクトデザイナーの深澤直人さんをアート ディレクターとして迎え入れ、世界に誇る日本発の家具ブランドとして確立することを目的に「MARUNI COLLECTION」を立ち上げました。深澤さんとは2005年に立ち上げた「nextmaruni」からのお付き合いでして、当初からマルニ木工の持っている木工加工技術は素晴らしいとおっしゃって下さいました。一方で、「塗装をべとべとと塗るのは木の表情を殺しているようでとても残念です」というご意見も頂きました。今までつくってきたヨーロッパ調のクラシック家具では、塗装と磨きを繰り返す事で木の良さを引き立てると思っていましたので、当初は「そんな事を感じる人もいるんだな」と新鮮に感じていたことを覚えています。2011 年からは、デザイナーとしてジャスパー・モリソンさんにも加わっていただき、更なる高みを目指し世界に愛される日本の美しい家具づくりを進めています


  • HIROSHIMA アームチェア / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • Lightwood チェア / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • 古賀大起

古賀:「MARUNI COLLECTION」は、発表の仕方等も含めて海外での展開を強く意識されているように感じるのですが、当初から海外への発信を意識されていたのでしょうか?

山中:当初から深澤さんが「世界の定番を目指そう」とおっしゃっていました。そして、深澤さんがデザインされたシリーズにも、一度聞いたら絶対忘れないだろうということで「HIROSHIMA」と名付けようとおっしゃりました。「MARUNI COLLECTION」の海外での発表は2009年のミラノサローネが最初です。経済産業省がサローネの本会場にブースを持っていまして、そこに同業数社で共同出展しました。

古賀:海外での反応はどのようなものだったのでしょうか?

山中:丁度、同時期に商社で家具の輸入をしていた人物(現海外営業担当)が「HIROSHIMA」の椅子なら世界で勝負出来ると思い弊社に入社し、サローネではその営業がブースの外にまで出て人々に話しかけ、結果4社のパートナーを獲得しました。その4社はアメリカやUKのトップディーラーなどで、そこでの扱いが始まると同時に、一気に海外での展開が広がっていきました。以後、ミラノサローネには毎年出展しています。

松葉:日本のブランドが海外で評価され、次々に展開が広がっていくという事を聞くと嬉しくなりますね。そういうブランドに共通していることは、デザインも然る事ながらやはり確かな品質を持っていることなのだと思います。先ほど工場を見学させて頂いた際にも「HIROSHIMA」を始めとする家具が様々な工程やチェックを経て製品化されているのを目にして、きちんと丁寧なものづくりがされているなという印象を強く持ちました。そして工場見学で印象的だったのが、修理部門をお持ちだという事だったのですが、何故修理部門をお持ちなのでしょうか?


  • 家具の修理風景 / (c)Maruni Wood Industry Inc.

山中:採算的に儲かる・儲からないではなく、修理もきちんとやっている会社でありたいという想いがあるからです。修理部門のスタッフは一旦定年になった職人さん達が担当しています。というのも、今はラインで工程毎の担当になってしまっていますが、キャリアのある職人達はほとんどの工程を1人で作業する事が可能です。ですので、修理品の張地を丁寧にはがし、それを型におこし、張地を切り出したり、ボロボロになったウレタンも丁寧に取り出し型をとったりと一人で修理をしてしまいます。ちなみに、修理で面白いなと思うところは、張り替えはやって欲しいと言われるのですが、木部の塗装の依頼は意外と少ないという事です。塗装までしてしまうと新品同様になってしまいます。やはり思い出が重要なのですね。

古賀:木部の使い込みの経年変化は、例えばデニム生地のように使い続ける過程で使い手の痕跡が刻みこまれ、愛着が増して行くような感覚と近いもので、それが家庭の思い出が刻み込まれるならば尚更手放せないものでしょうね。工場を拝見しても、良い物を長く受け継ぐという精神が工程の節々から感じられます。そのような物に対する文化は外国でも評価されるポイントになるのだと思います。個人的には同様の精神にからかと思っているのですが、伊勢丹新宿店で開催されている「ふしとカケラ」というイベントに関して、その経緯等をお話いただけませんか?

山中:製造工程で節やシミがある部材がどうしても出来てしまいます。最初はそれらを避けておいて、ブラック塗装をする時に節をパテ埋めして製品化していたのですが、ナチュラルとブラックの需要のバランスが凄く悪くて、どんどん節のあるものが溜まっていってしまいました。たまたまその頃に伊勢丹の当時バイヤー(現リビング部門の部長)だった方が工場に来てくれて節のある椅子を見たところ、「これは良い、節のまま出そう」とおっしゃって下さって実現したイベントが「節のあるHIROSHIMAアームチェア」というイベントでした。1週間限定のイベントに30脚用意したのですが、当初は1週間で30脚売れる訳ないと思っていましたが、完売しました。その後、背もたれ、座面、脚組をそれぞれ選び「自分だけのHIROSHIMAアームチェアと出会う」というイベントを行いました。そこでは、節のある商品だけでなく、自分だけのお気に入りの椅子を仕立てるように対話をしながら購入いただきました。伊勢丹新宿店の1階で開催した「ふしとカケラ」は、それら「節のあるHIROSHIMAアームチェア」の集大成です。第一回目の「ふりとカケラ」は、伊勢丹新宿店にとっても1Fのザ・ステージという場所で家具のイベントを初めて行う試みであり、不安と期待が入り混じる中スタートしました。1週間のイベントのために100脚用意した椅子は、3日目にはほぼ完売しました。それ以降も不定期ですが、同様イベントを行っています。今月23日(金)からも開催予定です。

松葉:使い込みによる経年変化と同様に、節やシミにも愛着を感じるでしょうね。

3:工場見学が会社を変える

松葉:マルニ木工の今後のビジョンをお聞かせいただけますでしょうか?

山中:ビジネスとして実施しているのではないのですが、現在、工場のエンドユーザーへの一般公開は一切していないにも関わらず、毎年500人位の方に工場見学に来ていただいています。皆さん家具が好きな方が来て下さり楽しんで帰って下さるのですが、残念な事にこの工場内に美味しい食事やコーヒーを楽しむためのおもてなしの施設がありません。ですので、そういう場所を設けることができたら良いなと思っています。広島市内から車で一時間位かかる工場の周辺は山野に囲まれているのですが、その環境が良いかなと思っています。また、以前深澤さんが「木工の聖地の香りがする」とおっしゃっていました。とても素晴らしい構想です。この場所が世界中の木工を志す人が一度は行きたいと思う場所にしていけたらと思っています。


  • 湯来工場外観 / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • 木材置き場 / (c)Maruni Wood Industry Inc.

職人達とのワークショップや、週に一回ファクトリーツアーを開催、裏山の斜面を伐採してログハウスを建てて宿泊施設にするなど夢は広がります。というのも、工場の職人達は毎日木を切ったり削ったりの繰り返し。何が一番喜ぶかと言うと、人が工場を見に来てくれる事なのです。工場見学に来た方にも喜んでいただき、職人達も誇らしいと思って仕事をするというのが一番良いですよね。その為には、人に来てもらえるような施設や取り組みが必要ではないか?というのが発想の原点です。以前どこかで期限を付けたら目標になると書いてあるのを見たので、マルニ木工創業100周年に向けてそれを実現出来たらと思っています。


  • 工場内風景 / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • コッピングマシン / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • NC加工機 / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • 塗装風景 / (c)Maruni Wood Industry Inc.


  • 松葉邦彦

松葉:併せて、工場見学の後に家具の直売所があったら絶対に買って帰ると思います。それと元々広島県はブナが多かったとお聞きしました。現在は家具の材料は輸入材を使用しているとのことですが、国産材を使って家具を製造される可能性もあるのでしょうか?

山中:国産材は針葉樹が中心なので家具には向かないということもあって、基本的に国産材での製造は行っていなかったのですが、最近国産材の活用に関する問い合わせも増えてきたので、今年に入って家具に適した樹木が無いかと東北地方をまわってみました。ただ、径が小さかったりしてなかなか適したものを見つける事が出来ませんでした。

古賀:何でも国産である必要性がどこまであるのかはわからないですが、もし工場の裏山で切り出した木で家具を製造出来たら、木工の聖地により近づいていくのかなと思います。

山中:深澤さんともその話をした事があって、国産材で一番安定的に調達出来る広葉樹は栗なので、一度家具をつくったのですが、木目が荒い上に黒いため上品な感じがせず検討をやめた事があります。ですが、いつか国産材や県産材での家具製造を行いたいと思っています。

松葉:先ほど、深澤さんが「塗装をべとべとと塗るのは木の表情を殺しているようでとても残念です」とおっしゃっていたとお聞きしました。通常、塗装と磨きを繰り返すクラシック家具の木部の塗装をクリア系に変えたり、張地のファブリックを現代的なものに変えたりするなどしたら面白いと思うのですがいかがでしょうか?

山中:以前実際にやってみたことがあり、木部の塗装を真っ白にしてみたところ意外と好評でした。今後は徐々に定番に加えていく事も検討しています。

古賀:87年の歴史と蓄積がありますので、次なる展開としてクラシックの進化型が出てくると非常に興味深いと思います。工場見学を実際にしてみて工場見学が出来るというのは、ある種絶対的なこだわりへの自信の現れだと感じました。きちんとした事をやっていなければ中々人に見せる事が出来ないと思いますので。


  • 山中武

山中:工場見学を受け入れるようになったのは2008年の「HIROSHIMA」を発表した頃でして、それまでは人に見せる必要は無いと考えていました。実は2007年にトヨタ生産方式のコンサルタントと出会い、その生産方式を導入したのですが、出会いのきっかけをつくって下さったのが家具メーカーの飛騨産業さんでした。そのコンサルのやり方は、お互いに工場を見せ合って、その問題点を解決していくというやり方なのですが、最初に工場を見せる事に抵抗があり、その事を飛騨産業さんに相談したら「見て真似される技術はその会社の固有のものでは無いだろう」と言われて、その瞬間に確かにそうだと思い方針を転換しました。それでお得意様を工場にお呼びして見ていただいたところ大変喜んでいただけたので、以後積極的に工場見学を行うようにしています。

松葉:ものづくりの過程を見る事が出来るのが工場見学での一番の醍醐味だと思います。家具がつくられる過程を見ていてとても楽しかったですし、多分かなり効果的な営業ツールになると思います。帰りに絶対にHIROSHIIMAのアームチェアを買って帰りたくなりますので。

山中:ものづくりをしている瞬間というのはやはり楽しいものです。マルニ木工は常にその感覚がある会社だと思っています。「HIROSHIMA」は高度な木工加工技術を要するので、多分うち以外のメーカーは量産をしようとは思わなかったと思います。機械加工して量産するハードルがいかに高いかは容易にわかるのですが、うちはそういう事をやってしまう会社なのです。そういうところがマルニ木工らしくて良いかなと思っています。創業者のモットーが「工芸の工業化」なのですが、うちは常にそのバランスを見ている感じだと思います。全部機械任せになってしまうとつまらないものになってしまうのだと思います。そこに人の手が入る事で初めて人に感動してもらえるような家具になるのだと思います。


イベント情報

10月23日(金)からマルニ木工では、イタリアのハウスウェアブランド、アレッシィと共に生活にまつわるさまざまなアイテムを交えながら、生活者とともに日々呼吸をし、成長をつづける暮らしの空間「LIVING HOUSE(生きている家)」を提案します。スタイリストの作原文子さんの空間構成のもと、リアルな暮らしのシーンとはなにかについて改めて考えてみたいと思います。

期間中は、マルニ東京にMARUNI×ALESSIのPOP-UPカフェが登場したり、マルニの職人とともにコースターづくりを体験できるワークショップを開催します。この期間にしか体験できないMARUNIとALESSIの空間をお楽しみください。


/// MARUNI×ALESSI「LIVING HOUSE」(生きている家)///
会期 10月23日(金)~11月3日(火)10:00~18:00
会場 マルニ東京
http://www.maruni.com/jp/event/autumn2015/

/// POP-UP CAFÉ ///
会期 10月23日(金)~11月3日(火)

/// MARUNI WORKSHOP ///
会期 10月31日(土) 13:00~15:00 /16:00~18:00
お申込みはマルニ木工ホームページよりお願いします。

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社TYRANT代表取締役/一級建築士 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。 人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造所再生計画)という異例な経歴を持つ。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。