都市フォントが、のちに「都市らしさ」を醸成する
2020年のオリンピックを見据え、東京の街中で使われる新しい街区表示用書体「東京シティフォント」が公開された。公開したのは、それを専門に取り扱うタイププロジェクト株式会社だ。フォント好きの学生でも、こうした街区表示用書体に強みをもつ会社を知っている人は多くないのではないだろうか。
都市フォント構想は、都市独自のフォントをコミュニケーションツールとして活用することで、都市のアイデンティティを強化しようという試みだ。都市の分かりやすさを促進するだけでなく、その地域が培ってきた固有の文化を文字のデザインにとりこみ、都市らしさを醸成することを目指しているそうだ。
「都市らしさ」になるまでには、都市のイメージに一貫性を与えるため、街中のサインだけじゃなく建築・空間・カタログ・名刺などさまざまな媒体で活用することも必要だ。市民の利便性を高めるだけでなく、訪問者の印象にも残る。
見直してみると統一感にかけていた東京の街区表示板
例えば街区表示用のフォントを見てみよう。
街区表示板とは、街なかでよく見かける、所在地の記されたプレートのこと。雨風にさらされて古びた街区表示板にある種の味わいも確かにあるけれど、実は現在使われているものは街区名の表記方法やフォーマットがまちまちで統一性に欠けている。
今回見直した街区表示板の最大の特徴は、和欧併記になっている点。2020年までに外国からの訪日客数2000万人を目標にかかげる日本にとっては重要な役割を担うだろう。
ちなみに、このフォントが仕上がるまでには当然数多くの試行錯誤があった。サインシステム用に開発していた書体をベースに、字面の大きさ・字画の太さ・字幅・縦横画の太さの比率・筆画の強弱など、書体のさまざまな属性を微細に調整しながら検討と試作を繰りかえしたという。
江戸ッ子と東京人に通じる気質から、東京シティフォントのスタイルを導く
また、「都市らしさ」を引き出すため、東京と江戸に共通する性質を、書体の属性に置き換えることにもチャレンジした。江戸―東京の美意識は、長い時間をかけて生活様式をかたちづくってきたはずで、そこから書体の様式を導くという方法は、思いのほかうまくいったそうだ。
【江戸ッ子と東京人に通じる気質】→【東京シティフォントのスタイル】
さっぱりしている「江戸前/簡素」→飾りのない「サンセリフ」
てきぱきしている「ちゃきちゃき/身軽」→軽めの「ライトウエイト」
あか抜けている「いき/洗練」→細身の「コンデンス」
活き活きしている「いなせ/快活」→抑揚のある「ストローク」
他にも、彼らは別の都市のフォント制作にも取り組んでいる。名古屋のシンボルである金のシャチホコを主要なモチーフとした「金シャチフォント」、横浜らしさを表すキーワードをベースに、フェリーのフォルムや港の風などを書体のデザインに反映した「濱明朝体」だ。
いずれも、「都市らしさ」が伝わってきはしないだろうか。
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▼関連イベント情報
「東京シティフォント」は、現在ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の日本デザインセンター アートディレクター 色部義昭氏の個展で公開されている。気になる人は、ぜひ足を運んで展示を見てもらいたい。
色部義昭:WALL
会期:2015年9月2日(水)~9月28日(月)
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
詳細:ギンザ・グラフィック・ギャラリーホームページ
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