描いても描いてもあきない。だったらずっと描けばいい。西島大介が語る制作を続けられるひみつ

漫画家、作家、音楽家と様々な顔を持つ西島大介さん。「ひとつ、自分の作品を世に出さないとダメなんだ!」と全てを捨てたデビュー作から、震災後に我が子を見つめて静かに描き始めた「ぼうや」のこと、ずっと作り続けるためのひみつまで。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

始まりは、コンサート会場に飾った1枚の絵。

僕は今でこそ美術館で展示をやっているけど、美大を出ているわけではないんですよね。デビュー当初から僕の作品を「アートっぽい漫画」という人は多かったけど、美術に挫折して漫画家になったわけでもないし、その逆でもないんです。

「生きとし生けるもの」の展示オファーは、漫画を描き下ろすこと以外は何の指定もない自由なものでした。このタイトルを聞くと森山直太郎さんのあの曲が脳内で再生されちゃったりするわけですが、オファーをいただく少し前に僕のコンサート会場に何気なく飾った「Nighty-Night」の絵をヴァンジ彫刻庭園美術館の方が見てくださってオファーしてくださったのがきっかけだと思います。この絵をキーにして作品が生まれると感じ取ってくれたんだろうなと。ライブ会場に絵を飾ったのは、来てくれた方へのほんのおもてなしの気持ちだったのですが、そういう境界を飛び越えて活動することが展示につながったりするものなんですね。

「ひとつ、自分の作品を世に出さないとダメなんだ!」。

漫画家デビューは29歳。遅いでしょう。それまではライターや、映像の仕事をしていたんですが、どうしても本を出したいという思いを捨てられずに、やることを漫画だけに絞りました。「このままいろいろやっててもダメだ、一冊の漫画を書いて、ひとつ自分の作品を世に出さないとダメなんだ!」と一念発起して、当時持っていたモノも友達も全部捨てました。

一度漫画が世に出たらなんだか気持ちがすっきりして。翌年には漫画につけるサウンドトラックを自分で作ってみようと音楽活動も始めました。もともと父親がジャズが好きで、その反動でテクノやノイズが好きになり、それが一周してピットイン(ジャズの有名なライブハウス)でなぜかDJデビュー。しかもエアDJと称してターンテーブルは置いてあるだけ、店内スピーカーで用意してきたキース・ジャレットとYOSHIKIのピアノを交互にかけるという(笑)
あっちいったりこっちいったりでふらふらしているように見えるかもしれませんが、いつも新たな初期衝動を探しては、そのたびにつきつめて考えて制作しているんです。

だから、さいごのセリフは「おやすみ」

震災が起きた時にまだ赤ちゃんだった息子が「ぼうや」のモチーフになっています。この世の中に対してどうしたらいいんだろう、と考え、消費経済全体を疑い始めた当時は「漫画なんて書いてる場合じゃない」と思いました。そんなときに、息子の最低限の幸せって何かな、と静かに絵を描き始めたんです。

息子が生まれてから、女の子を可愛いなと思う本能とは違う、性差を超えた人類愛が芽生えました。それまで嫌いだった男子中学生もおじさんも、みんなもともと赤ちゃんだったのかと思うとなんだかかわいく思えたんです。
いろんなことがあって、1日疲れ果てたけど、寝れるところがあるのっていいことだなぁ。という発見がカタログに寄せた短編「Nighty-Night」で唯一のセリフ「おやすみ」にこめられています。

描き終わっても、「かわいい」が消えない。

「かわいい、かわいいから描いちゃうぞ。」と始まったシリーズですが、作品を描き終えても、かわいいが消えないんです。描いても描いてもあきない。それなら描きあきるまで描いちゃって、描きあきないんだから描けばいい。

自分の制作に迷ったり、世に出すことに戸惑っている美大生がいるとしたら、僕の「ぼうや」の絵のように、飽きないことを目標にしてみたらどうかな。
飽きないコツは、好きになること、それに、いろんな活動をしてみるのもいいかもしれない。

そして、例えば作品が初めて売れた時のような、何かが起こった瞬間をちゃんと覚えておくこと。つらくなってもそれを思い出せば作る喜びが湧いてきて、また新しい作品につながっていくと思うんです。金がないぞ、とか、こりゃやばいな、って時もまた面白い。だって、めっちゃ泳いだあとのカップラーメンが何よりうまいじゃないですか。今はカップラーメンを美味しく食べるために泳ぎまくってるんだ、小さいことは気にしなくていいんだ、ってただ作っていけばいいんです。

◆西島大介(にしじま・だいすけ)
1974 年東京都生まれ。広島県在住。2004 年描き下ろしコミック『凹村戦争』(早川書房)でマンガ家としてデビュー。作品に『世界の終わりの魔法使い』(河出書房新社)、『ディエンビエンフー』(小学館)など。2012 年に刊行した『すべてがちょっとずつ優しい世界』で第3回広島本大賞を受賞、第17 回文化庁メディア芸術祭推薦作に選出。「DJまほうつかい」名義でピアノ演奏による音楽活動も行う。

◆展示開催概要

展覧会名|生きとし生けるもの
公式サイト|http://all-living-things.com/
会期|2016年7月24日(日)—11月29日(火)
主催|ヴァンジ彫刻庭園美術館

(2016年11月25日)
(執筆・写真/出川 光)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。