俳優・村上淳が fxdul に”別注”したのはデイリーなモノとコラージュのコラボ作品(インタビュー)

画家が絵の具を使って作品を生み出すというのなら、Funny Dress-up Lab(以下fxdul)さんにとってのそれはカラフルで小さなステッカーだ。デッドストックのミニ四駆のデコレーションに用いるドレスアップステッカーを、ピンセットでさまざまな素材にコラージュを施していく。そんな彼が俳優・村上淳さんとのコラボレーションで新作を作り上げたところだという。

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村上:fxdulさんの作品はインスタグラムで見つけたんです。今のうちに何か一緒にやっておかないと、すぐに手が届かない作品になるなって思いました。@fxdulでコンタクトして、すぐグループ展の会場に遊びに行って何か一緒にやりませんか、と話をしました。

fxdul:ムラジュンさんにそう言ってもらった時、はじめは本気なのかな?って思ったんですよね。だけど会場に遊びに来てくれたその日の夜に、電話をかけてきてくれて。「本当に何か一緒にやろうとしてくれるんだ」って実感が湧いて、ぜひ、となったんです。


  • ▲これまでのfxdulの作品。下は車のボンネットにコラージュを施したもの。

村上:僕はストリート出身で、10代のころにスケボーのデッキにステッカーでカスタムをしていたんですが、ステッカーをカッコよく貼るのってすごく難しいんですよね。全部をステッカーで埋め尽くす「全貼り」に憧れたけどうまくできなくて。バランスとか思い切りが難しいんですよね。fxdulさんの作品はどうやって制作しているんですか?

fxdul:僕は全く何も決めずに貼るスタイルなんですよ。下書きをしたりもしない。こだわっているのは、ステッカーのアウトラインに沿ってや同色を組み合わせる事でステッカー1枚の境目が分からなくするようにしていること。ステッカーって1枚目は誰が貼っても同じだけど、2枚目から個性やスキルがでてくると思うんです。無個性な1枚目が見えなくなって初めて、ステッカーが作品になると思っているんです。

村上:そういうスキルや着眼点がすごいですよね。既製品のタミヤのステッカーで制作しているのには、昔カウズがイヴ・サンローランのポスターに落書きしたような、暴力的ではない攻撃性も感じられて。今はタミヤが(作品をメーカー公認にするのを)NGを出していますが、それをいつ突破するかというのも、オーディエンスが注目しているところだと思います。カウズが落書きしたポスターは、翌年イヴ・サンローランのコレクションに使われて、ストリートからブランドへの見る目が変わったのをよく覚えています。

アートを飾るのはすごくコアな趣味。でも、日用品とコラボするとみんな欲しくなってくる

村上:きっと多くの人がアートを望んでるはずだけれど、今の日本で家にアートを飾るってすごくコアなことですよね。でも日用品が作品になっていると、「じゃぁこれはできる?」ってアイディアがたくさんでてくるし、欲しくなると思うんです。それでこのシリーズのモチーフは日用品にしませんか、と提案しました。

fxdul:もともとiphoneにコラージュを頼まれたら受けていたこともあって、モチーフが日用品になっても違和感はなかったですね。でも正直、ハイペースでいくつも作っていくうちに、だんだん苦しくなってきたところもあります。オーダーされていると、100パーセント自分が生み出したい作品を作っているわけじゃないから、制作で楽しめる幅が少なくなって。

村上:そうやって抑圧されると必ず揺り戻しがくるんだと思います。このオーダーを受けた反動で、きっとこれからfxdulさんの作品の幅がぐっと広がると思うと、とても楽しみです。

“村上淳”が、ということではなく、誰かが熱狂的に支持してくださることが重要

村上:僕は10代の頃に藤原ヒロシさんに、いい感じの角度とタイミングで、ふっと機会とコツを与えてもらってきました。だから今度は僕が誰かのきっかけを作れたらいいなと思っています。それでアーティストの方々に「こんなのはどうでしょうか?」って僕なりの別注を提案しているんです。

アーティストの方々には、スキルや自分の志も大切にしながらも、気風(きっぷ)が良くあって欲しい。たとえば展示会場で絵を販売しているのに、その横でドローイングしてあげてしまうような。僕がfxdulさんに提案したように、自分の考えと全く違う角度から「こういうアイディアはどうですか?」と言われた時に、どう反応できるかがとても大切だと思うんです。

fxdul:僕はあの時、これからの活動の糧に必ずなると思ってやることに決めました。やったことがないことは経験としてやってみればいい、コケるかどうかなんて関係ない。実際やってみたらいろんな発見があって、これからの展示で在廊中はオーダーを受けるのもいいな、なんて考えています。

村上:そういう、fxdulさんが勝負をかけてる個展会場に、なにかフィードバックができたら、それがまさに僕の願っているところですね。

– Funny Dress-up Lab – (ファニー・ドレスアップ・ラボ)

1978年生まれ。千葉県千葉市出身、東京都在住。
本来ミニ四駆をドレスアップする為に生産、販売されていたドレスアップステッカーが持つ、色彩、形状、版ズレ、デッドストックという様々な面に魅了され、 ドレスアップステッカーのみを加工せずに使用したコラージュ作品を制作している。
Instagram : https://instagram.com/fxdul/
Facebook : https://www.facebook.com/fxdul/

村上淳

1973年7月23日大阪府出身。93年『ぷるぷる 天使的休日』で映画初出演。『ナビィの恋』(99)『新・仁義なき戦い』『不貞の季節』(00)の3作で一躍注目を集め、ヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。近年では『戦争と一人の女』(13)『オー!ファーザー』(14)『さよなら歌舞伎町』『新宿スワン』『グラスホッパー』(15)『太陽』(16)など数多くの作品に出演。公開待機作に『PとJK』『新宿スワン2』(17)がある。

(写真・執筆/出川 光)

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OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。