【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 展示編

2017年12月2日(土)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育的効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
を26ヶ条にしてまとめました。
ムサビ生向きな内容になってるけど、他美大の方、またこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 準備編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 場所編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 制作編



今回は展示編。より具体的な内容を。

17.電気を使う作品は電源入れて初めて成立する

ビデオとかPCとか電気を使う作品はちゃんと展示の時は電源いれましょ、ってこと。
すんごく当たり前のこと言ってますが(笑)、それが展覧会でできてない作者も多く・・・。

展示室に入ると、明るい部屋に電源の入ってないプロジェクタとパソコンだけポツンと置かれてて、「???プロジェクターだけ置いたインスタレーション?」・・みたいな状態ほどみっともないものはなく。そういうメディア・発表方法を選んだ以上、「毎朝電源を入れてスタートボタンを押す」のも卒展なんですよね。
 
観客として理解できないのが、1部屋を複数人使ってて、1人だけ電源が入ってないケース。
監視の学生さんに「なんでアレは電源入ってないの?」と聞くと、「●●ちゃん、寝坊してて」と返ってくる。「電源入れてあげれば?」と聞くと「スタートの仕方がわからないんで」「壊したら怒られるんで」「それは作者の責任なんで」と。
確かに作品を見てもらえないのは作者の責任だけど、これまで書いてきたように、隣接した作品の影響って大きく、部屋の中に一つでも電源がついてない作品があると、その部屋全体悪い印象になるんです。
きっとその子がいつも遅刻ばかりする子で「作者の責任です」と周りが言いたくなる気持ちもすんごくわかるんだけど、繰り返しのメッセージになりますが「個の卒業制作」と「合同の卒業制作展」は違って、自分のためにも「教室でのグループ展」という意識でやった方がいいですよ。


18.作者に見えなくても、お客さんに見えるものがある

美術の世界には「作品以外は評価してはいけない」という心優しい習慣があります。
例えばツッカエ棒が横っちょから見えてても、「ここまでが作品です」「この方向から見てください」と作者から言われたら、その部分しか「見えてない」ことにするし、見てないフリをしてあげるもんなんです。

とはいっても、ツッカエ棒はツッカエ棒だし、壁の汚れは壁の汚れだし、ガムテで張ってあるのが丸見えだったり、作品の前に工具や端材が置きっぱなしだったり、延長コードが作品の横にダラーンとぶら下がってたり、作品の前を延長コードがニュルニュルしてたら、気にならない方がおかしい(笑)
電気を使う作品が増えたせいか、延長コードの処理が適当なものが最近目立つかも。
多分作品本体に目がいってて、作者にはあのグルグルのコードが見えてないんじゃないかと。
せめて目立たない養生テープ(ガムテープではなく)でまっつぐピシッと床や壁に固定しましょ。
また、プロジェクタの隠し場所もポイント大きいです。「どこから投影してるんだ?」と思える作品はそこまで気が回る作者でもあり、だいたい作品内容もいいです。これほんと。

あとは私物かな。
展示場所が教室だから逃げ場がないことはわかってるんだけど、例えば作品の近くに世界堂の袋があると「ああ。世界堂で買ったのね・・・」と急に現実に戻される感じがあったり(笑)
配布物がある場合は、展示台の中に隠せる構造を作っておくといいですよ。
「作品以外は評価するな」かもしれないけど、その前に「作品に対する愛情はないのか」であり。

大学は「普通に展示した場合の最低限必要な壁面だけは用意しましょ」なスタンスなので、それ以上のものを求める場合は自分でなんとかするしかありません。学科によっては学生たちでお金を出し合って展示パネルにつける布を発注してたりします。
上記写真の作者は壁自体を発注しました。卒展のことを前から考えられる人はそういうところまで準備してるってことですね。ちなみに今は某大手キャラクター会社で働いています(笑)


あ、展示パネルの立て方、展示のやり方だと、こういう #大道具のネタ



も参考になりますよ。


19.吊りものは要注意

上から吊るす作品って多くの人にとって経験が少ない展示方法なので、机上の空論が一番出ちゃうもの。

なぜ吊るのか?
恐らく、「宙に浮いてるように見せたい」「中を歩くと大きな布がフワっとなってきれいだと思うから」てのを見せたいからだと思うんだけど、実際に作ってみたら「吊ってるものはやっぱり吊ってるようにしか見えない」「全然布が動かないor風の影響で布が常に横向きorフワっじゃなくバサバサっとはためく」になった作品をこれまでいくつ見てきたことか。

特に屋外で大きな布やビニールを吊るしてテンションを張る作品は、かなりシミュレーションしないと思った通りにはいきません。「空間のものに上下左右テンションを張る」ことがどんだけ大変なことか・・・。
ぶら下げるだけであればすぐできるし、左右はどこかに紐をくくりつければテンション張れないまでも固定はできるけど、それだけではすごく揺れるんです。室内だとエアコンや人の動きぐらいで余計に動くし、屋外だと風でバタバタと。

それを固定するためには下方向への固定が必須になるわけですが、地面部分にアンカーを打てればいいんだけど、だいたいは床穴あけ禁止なので重しを使うことになります。その重しをどう処理するかがポイントになるんです。
恐らく思ってるよりも大きく多くの重しを使うことになるはずで、「フワっ」とした優しい軽い印象の作品を作りたかったのに足元に重しがゴロゴロしてて重たーい印象の作品になったり。
「吊ってテンション張る」作品は上下左右からテンション張れる「フレーム」のようなものを作り、テンション具合を微調整できる構造にしないと、多分作者のイメージ通りにいかないはず。素材を選ばないと紐自体伸び縮みしちゃう素材なのであんまり信用できないしね。


また「8.この時期の風の強さと寒さはハンパない」「12.大きさ・長さ・広さ・高さの『重さ』がある」とも関係しますが、普段は重さをあまり感じない布やビニールだけど、ある程度の大きさになるとハトメからビローンと延びてビリっといっちゃいます。
布やビニールは意外と伸びるし、モロいんですよね。街の広告の大きな垂れ幕をよーく見ると、切れ目や穴が開いてるのに気が付くはず。あれは破れたんじゃなく風を逃がすためにあえて開けてあるんですね。
大量の吊りものだと脚立の上で手をずっと挙げた状態の作業になり、ミケランジェロ気分になることも覚悟しときましょ。
 
 
20.意外と平面は平面じゃないし、垂直は垂直じゃない

これには2つ意味があります。

一つ目は、 「床はフラットではないし、微妙に膨らんでたりする」ということ。
屋外や階段は水がたまらないようにわざと微妙に傾斜が入ってたり、中央部分が盛り上がってたりします。
普段は全く気にならないんだけど、ある程度大きな作品を設置してみると、「ん?傾いてない?」「フラットじゃないなあ・・」と気が付くことがよく起きるんです。
なので早めに仮設置して様子をみて修正する時間も計算しといた方がいい。

同じようなことは平面作品でも起きます。
レーザー水平器を使って完璧な水平垂直を出して作品を壁に掛けても、壁面の形状・模様・色味・周辺のモノで「・・・画面が傾いて見えるね・・」なんてことはしょっちゅう。建物自体がゆがんでる可能性もないことはない(ムサビの場合は可能性大・・・)
「水平器を使って水平に設置しているんです。傾いて見えるだけです!」と言い張るのは意味が無く、傾いて見えるんだったら、それは間違いなく「傾いてる作品」。最後はなんだかんだ目で確認するしかなく、微調整できる素材や道具、構造も考えて置いた方がいいです。


2つめは、「平面と思ってる素材はそんなに平面じゃない」ってこと。
一番多いのは「スチレンボード」と「ベニヤ板」。
スチレンボードはある程度厚みがないと、すぐにそっちゃう。プレゼンボードを壁に貼り付けたら真ん中が浮いちゃってるケース、よくありますよね(笑)
また、ベニヤ板は安いから芸祭とかで使うこと多いけど、卒展では使用しない方がいいです。ベコンベコンだから、きれいな平面は絶対に出せず、すごくチープな作品になっちゃう。広いしっかりした平面を作りたい場合はコンパネを使うしかないんです。それは展示壁もです。

ビニール素材も同じことがいえます。
上述したように、テンションを全方向からビシっと出せればいいけど恐らくそれは無理で(強度的にも)、シワシワになっちゃう。広い透明な平面を出したい時、ガラスや透明アクリルの代わりに透明ビニールを使うケースがありますが、透明ビニールはガラスや透明アクリルの代用品には絶対になりません。
加工や扱いが簡単だけど要注意な素材で、使い方を間違えると安っぽく見えるのも布やビニールなのです。


21.ワークショップ系は想像力で広がるし、小さくなる

「ワークショップのアイデアは想像力が必要!」という意味ではありません。

最近ムサビの卒展で増えてきたワークショップ系作品。
みんなでワイワイ楽しんでるシーンは思い浮かべやすいけど、「それ以外のシーンをどれくらい想像できるか」がかなり鍵になります。多くは経験値によって学ぶものだけど。

例えば、みんなでペンキを使って壁に大きな絵を描くワークショップをやるとしましょう。
必要なものは・・・ペンキと筆。これは当たり前(笑)
ペンキを出しておくパレットも必要ですね。これは紙皿で代用可能。おっと水性ペンキなら水がなくちゃ。そして筆を洗う用の水と筆洗缶も必要。これらはバケツでいきましょ。あとは古新聞紙とか。

・・と、ここまでは誰もが想定できます。
でも「汚れ対策」「水の確保」が意外と抜けてることが多いです。

汚れ対策は「施設」と「人」のふたつがあります。
「壁に絵を描くんだから床は汚れない」と思ってたら大間違い。描いてる時に筆から落ちたり、紙皿パレットからこぼしちゃったり、ペンキをつけちゃいけない壁面にペンキがついちゃったり。そして床に落ちたペンキはふき取っても薄く広がるだけできれいに取れないんですよね(笑)
ただ、「施設」はしっかり養生すればかなりの部分はカバーはできます。
問題は「人についた汚れ」。
それを目的に来てて事前に「汚れてもいい恰好で」と告知されてればまだいいんだけど、だいたいはその場に通りかかった人。どんなに注意してても絶対に手や顔、髪にペンキはついちゃいます。「ペンキが付いたのはあなたの責任」で帰らせるわけにはいかないので、ウェットティッシュ・タオル・ウエス・除光液などなどいろんなものを準備しなくちゃいけない。「んなもん自然と落ちますよ」とは言いにくい。
洋服についたペンキをどうするのか、これも面倒な話。美大生は汚れを気にしないけど、普通の人は気になるんです。エプロンをつけさせるのか、ビニールがっぱを着せるのか。
足元の汚れもそう。「床にペンキは落ちるもの」なので、いつのまにか靴や靴裏にベットリついちゃう。靴裏についたペンキは気が付かないことが多く、養生していない部分にペンキの足跡がついてしまったり・・・。気が利くワークショップだと「靴用ビニールカバー100足入り」を準備してる場合もあるけど、実際にやってみるとわかりますが、これ、すぐに破れちゃうんですよね(笑)「そこまで気を回してますよ」のポーズとしては使えますが。

そして「水をどこで確保し、どこで処理すればいいのか」問題。
会場内に水場があればいいけど、なければ遠くからエッチラホッチラ運ぶことになります。そして水性ペンキで汚れた水をどこに捨てればいいのか。美大内だとあまり気にならない問題ですが、公共施設・商業施設だとこれがかなりやっかいな話で。

「そんなこと考え出したら何もできないやん!」と思っちゃうけど、それらを踏まえてワークショップのコンテンツは考えるものなので、「想像力があればあるほどいろんな必要品が思いつく一方、幅は小さくなる」と。
ワークショップ系は画材費用もそうですが、それ以外の部分での出費を想定しておきましょう。場合によってはそっちの方ががかかるかもしれません。


さて、次はシリーズ最終回の会期中編です。お楽しみに!



ところで、この記事のURLをご覧ください。

https://partner-web.jp/article/?id=1500

となってますよね?
PARTNER_WEBは、ページ作成順に番号が自動的に振られるので、そうなんです!
この記事でPARTNERが1500記事目なのです!!
ばんざーい!ばんざーい!!

2016年8月2日に1000達成してるので、1年4ヶ月で500。
で、そのうち手羽が書いたものが727なので48%は手羽記事。半分超えてるかと思ったけどもう少しなんだな。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。