アートプロジェクトを運営する政治家! OA vol.3 八王子市議会議員 及川賢一

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が 今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第3回は八王子市議会議員でありながらアートプロジェクトを展開するNPO法人AKITENの代表も務める及川賢一さんにお話を伺いました。

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及川賢一
1980年生まれ。東京都八王子市出身。 東京都立大学大学院修了(経営学修士) ソニー(株)、経営コンサルティング会社を経て、八王子にcafé Wを共同設立。 2011年より八王子市議会議員(無所属)。現在2期目。 空きテナントを活用したアートプロジェクトを運営するNPO 法人AKITEN 代表。 八王子のデートスポットを紹介するTV番組「恋する八王子彼女」プロデューサー。

松葉:「Outsider Architect」の第3回は、八王子市議会議員の及川さんにお話を伺って行きたいと思います。前回の古賀さん・坂東さんとの対談に引き続き、この連載では「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」について、ゲストと一緒に考えていきます。今回主に、以下の3つのトピックについて話をしていこうと思います。

1:政治家がアートプロジェクトを運営する意義
2:アートの力で空きテナントをポジティブな場所へ
3:社会のコンテクストの中に自分を位置づけていく

1:政治家がアートプロジェクトを運営する意義

松葉:まずは簡単な自己紹介をお願い出来ますか?

及川:私は八王子市議会議員をしながらアートプロジェクトを運営するNPO法人AKITENの代表をしています。大学時代はジャーナリズム論を学びジャーナリストに憧れていたのですが、次第に観察者として社会問題を解決するよりも、プレイヤーとして解決したいという思いが強くなりました。その後は経営コンサルタントとしてプロジェクトマネジメントの経験を積み、現在は政治家やNPO法人といった手段を通じて地域活性化に関わっています。

松葉:市議会議員でありながらアートプロジェクトを運営しているというのは全国でも類を見ないのではないかと思います。何故アートプロジェクトを運営しようと思ったのでしょうか?

及川:おっしゃる通り、市議会議員をしながらアートプロジェクトをしているのは珍しいとよく言われますが、自分としてはすごく自然なことなんです。昨今では全国で文化芸術振興を目的とするだけではなく、地域活性化の手段としてアートプロジェクトが数多くおこなわれています。市民と一緒に社会問題を解決する場合、問題解決に向けたアクションを促すためには、まずその問題を地域で解決すべき問題として認識してもらう必要があります。人に気付きを与えるという点においてはアートが持つ力はとても大きく、政治家がマイクを持って街頭で訴えるよりも、アートティストが感覚に訴える方が人々のモチベーションを喚促しやすい。しかしアートは問題解決の手段とはならないため、最終的には政策などの形に変えて行政と一緒に解決していく必要があります。そのためアートプロジェクトで気付きを与え、それを政策として行政に繋げていくというのは、すごく自然な流れです。

松葉:一概には言えませんが、アート・アーティストというのは元々反体制だったりと政治とは相対するスタンスだったのだと思います。ただ、近年主流となりつつある芸術祭やアートプロジェクトというものは、どちらかというと体制に寄り添う形でうまくやって行こうという傾向ですよね。これはアートやアーティストが狂犬から飼いならされた番犬になって来たとも言えなくはないですが、一方でうまく体制側を使いこなしているとも言えるとも思います。もちろん、相変わらず扱いに困る狂犬のようなアーティストもいますが笑。いずれにしても政治家がアートプロジェクトを運営しているというのは、非常に現代的な事なのかなと思ってしまいます。僕自身が建築の設計をやっていることもあり、既存のルールや仕組みをうまく活用した上で自分のやりたい事を実現していくというスタンスの方がしっくりくるというのもあると思いますが。

及川:そうですね。体制とか反体制とか常に決まったスタンスでいる必要はなくて、行政であれ、体制であれ、自分のやりたいことや自分たちが目指したい社会のために協力してくれるパートナーがいるのであれば、互いに寄り添ってうまくやっていった方が良いと思っています。

2:アートの力で空きテナントをポジティブな場所へ


  • AKITEN 2014

及川:AKITENは八王子駅周辺の空きテナントを使って地域の文化や魅力を発信していくことを目的とした活動です。アートギャラリーの他、産業、文化、歴史など、地域の独自性を持ったコンテンツを空きテナントに持ち込み、アート、デザインの力でそれらを市内外に広めるプロジェクトを八王子で展開しています。それらの活動には、空きテナントがあっても商店街が活気を失わないように人を集められるという効果だけではなく、大家さんの協力のもと家賃負担を減らして自由に地域の独自性を持った空間を作ることができるという効果があります。


  • AKITEN 2014

松葉:駅前に空きテナントがあるというと一般的にはネガティブなイメージになってしまうと思いますが、一方でそれを公開空地のような場所と位置づけると急にポジティブな場所になりますね。空きテナントの価値を転換させるようことによって、まちの印象も大きく変わってくるのだと思います。

及川:まちづくりにおいてマイナスイメージの強い空きテナントの存在をポジティブに捉え、アートの力を使って空きテナントの有用性について気づきを街にもたらすことができればと思っています。また地域の魅力を発信していくという点では、八王子の食をテーマにした「FARMART」というファーマーズマーケットを空きテナントや空き家を使って開催しています。これは非常に評判の良いイベントで毎回1000人近い方が来場してくれるのですが、八王子に住んだらこんなに素敵な食生活が送れるという、八王子ならではのライフスタイルを提案しています。

松葉:八王子ならではのライフスタイルがどんなものなのかは非常に気になります。というのも、建築の設計では地域特性というものを意識しない訳にはいかないと、最近強く思うようになってきました。気候や風土といったものを建物形態に落とし込むという事は以前からやられていたと思うのですが、それだけでは不十分なような気がしています。建物の話だけでなく、食や文化、産業など人の生活を取り巻く様々な要素をトータルでコーディネートしていくという事が求められて来ている気がします。当然そこには新しさも無くてはならないといけませんが、地域の特性を無視してニュートラルなものを構築してしまうのは違うのではないかと思っています。そういった意味でも、今後AKITENからどのような独自のライフスタイルが提示されるのか楽しみにしています。


  • FARMART vol.1


  • FARMART vol.1

3:社会のコンテクストの中に自分を位置づけていく

松葉:及川さんは政治家として様々なビジョンをお持ちだと思います。また、市民に対してはその内容をわかりやすい形で示す必要があると思います。ここでは特に文化事業についてお聞きしたいのですが、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?

及川:八王子市は美大が2つある一方で、まち自体はあまりアートやデザインに関する活動が盛んではないと思っています。そもそも東京都の多摩地区には文化芸術の拠点となるような施設があまり多くなく、国も都も文化芸術施設を置いていないので、何か核となる施設が誘致できればよいなと思っています。もちろん施設ができればアートやデザインに対する活動が盛んになるかと言ったらそう簡単にはいかないと思うので、まずはその施設を有効活用できる地域の活動を育てていかなくてはなりませんし、自分たちもその受け皿となれるようにアートやデザインに対する地域の興味、関心を高めてい行ければと思います。

松葉:現況、人口58万人の都市に相応しい文化芸術施設が八王子には無いのは残念ですね。個人的には金沢21世紀美術館のような施設がJR八王子駅から徒歩圏内に出来たら良いなと思っています。先日も金沢に用事があり滞在していて朝散歩のついでに21世紀美術館に立ち寄ったのですが、開館時間の9時前から人が大勢いるのを見て非常に驚きました。もちろん、展示作品や美術館の建物自体が素晴らしいというのもあるのですが、多分アートやデザインというものが地域にきちんと根付いているんじゃないかという気がしました。その点においては八王子はまだまだですよね。及川さんは八王子市議会議員の中でも文化芸術が理解出来る数少ない人だと思いますので、この点についても是非頑張っていただきたいと思います。

及川:八王子は日本で最も学生が多い学園都市でもありますし、うまく連携して学生の力をまちづくりに活かしていきたいですね。ちょうど2015年の秋から多摩美術大学と連携して商店街プロモーションの授業をできることになったので、そういった機会を最大限に生かしていければと思います。この対談を読んでくれている学生さん達に伝えたいこととしては、自分と社会のつながりを強く意識して欲しいということです。この国で生活している以上、多かれ少なかれ自分の生活は必ず社会と関係してきます。市場規模を見ても日本は諸外国に比べてアートやデザインに対する関心が低い国です。けれど、その関心の低さをただ嘆くのではなく、また関心を持たない人に無関心になるのでもなく、どうやったら自分や自分の作品に対して関心を持たせることができるのか?ということを考えてほしいと思います。

松葉:物事に関心を持っていない人や価値観の異なる人に、自分自身や作品を理解してもらうという事は難しいのだと思います。ただ、そういう人達に理解をされていかないと世界が広がっていきません。もちろん全ての人間に理解・賞賛される必要は無いと思います。むしろ賛否両論が起らない物事の方が問題であり、万人から賞賛されるというのは段階としてそんなに凄い事では無いのかも知れないと個人的には思っています。ただ、いずれにしても自分だけの殻に閉じこもっているだけでは世界は広がっていきません。内にこもり内省的であり続ける事で得られる事もあると思いますが、それは選択の問題でありまずは両方の選択肢を持つべきだと思います。

及川:友情や恋愛と一緒で、自分に対する関心を持たせられるかどうかはすべて自己責任です。それ故に、自分と社会がどう関係しているのか?ということや、自分が社会に対して何ができるのか?ということをしっかりと考えて、社会のコンテクストの中に自分を位置づけていく。ぜひその訓練を学生の間に積んでもらえたらと思いますし、AKITENはいつでもその受け皿になりたいと思っています。

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社TYRANT代表取締役/一級建築士 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。 人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造所再生計画)という異例な経歴を持つ。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。