【#美大受験 2019 】美大実技試験に関するたった1つのアドバイス

2019年2月4日(月)

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美大受験生の疑問にお答えする「#美大受験」シリーズをお送りしています。

#美大受験 では、ムサビ、または関東美大の一般受験入試(AOや推薦入試じゃない)を具体例で使ってますが、基本的にはどの美大受験にも参考になると思います。
これまでの話はこちら。
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たったひとつの実技試験のアドバイス、それは

問題文をちゃんと読もう。

です。

「え?それって学科試験のアドバイスじゃないの?!」と感じるかもしれませんが、これほど実用的で、即効力があり簡単に得点を稼げる方法はありません。

これには2つの意味があります。

一つ目はそのまま、「よく読んで条件をちゃんと踏まえないとダメ」という意味。
例年、視覚伝達デザイン学科や基礎デザイン学科、デザイン情報学科等の試験は問題文に「条件」「設定」が多く書かれてます。これをよく読まないと出題意図とは全然違うものになってしまうことがあるの。

去年のデ情・造形表現テストの問題文を引用します。
たぶん皆さんが想像されてる美大「デザイン」問題と違うのでびっくりしますよ。

【問題】
「配付物(メジャー)はゴムのように伸び縮みする」ことを想定した上で、メジャーで長さを測る様子を自由に描写しなさい。


面白い出題ですよね。
メジャーの機能をまず整理し「メジャーは伸びたら使い物にならない」ことを理解し、次に「でも伸びたらどんな面白いことが起きるんだろ?」を考えさせ、そのシーンを1枚にまとめる試験。
読解力、理解力、発想力、イメージ力、そして表現力を問われてるってことで、なんとなくサービスデザイン的な要素も感じます。
個人的に面白いと思ったのは、条件には入ってないのに参考作品にはどれも「手」が描かれてることだけど(笑)


ちなみにムサビ実技試験でよくあるのが条件に「天地の矢印を描きなさい」と書いてあるケースで、出題条件である以上、天地を書いてなかったら減点対象になる可能性があります。
なおかつ、出題部分なので試験監督が「受験番号ちゃんと書いてください」と同じように「天地をちゃんと書いて」と指示することもありません。
机上静物モチーフだと天地矢印はいらないと個人的には思うけど「条件」なので。
「よく読む」とはそういうこと。


ふたつめは・・の前に、この単語を解説しないといけませんね。

「モチーフ」という言葉がありますが、美大受験用語としての「モチーフ」は主に2つの意味があって、1つ目は「絵や彫刻で再現される対象」
イコールではありませんが、他の日本語だと「対象」「静物」が一番近いかな?
だいたいの場合は、布・ガラス・鉄・植物・プラスチックなど異なる質感・色・形態のものをモチーフにし、布は布らしく、ガラス瓶はガラス瓶らしく「質感・量感を描き分けできるか?」「画面にバランスよく納めているか」「形がちゃんと取れているか」「調子・陰影を把握してるか」等を見る試験。


工芸工業デザイン学科の鉛筆デッサンが典型例で、

例年の問題文には
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「机上のモチーフをデッサンしなさい」
===========

とだけ書かれてて、「いかに対象の特徴を捉えているか?忠実に形や質感や量感等を再現し、構図が優れているか?」等の「観察力」「基礎デッサン力」「描写力」が問われます。
多くの方になじみのある、すぐに想像できる美大入試らしい「モチーフ」はこっちの意味じゃないかと。
 
そして2つ目は、「題材や動機」という意味。
違う単語だと「テーマ」「きっかけ」「イメージ」が近いかな?
あくまでもそこに存在するのは「きっかけ」であり、そこからどう発想を展開させたかを見るものです。

去年だと日本画学科の着色写生がそれだと思います。

【問題】
「コンプレックス」という言葉から想像されるイメージを、 与えられたモチーフおよび身体の一部を構成し、着色写生しなさい。

出題意図にはこう書かれてあります。
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与えられたモチーフである花部を取り去ったバラの枝と身体の一部を構成するというきっかけから、描写力のみならず、そこに湧き上がる自己のイメージを「絵画」としたとき、どのような表現力を示すのかを見るための出題である。
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単純にバラの枝を描写するわけではなく、いかに与えられた言葉と自分をモチーフに重ね合わせて昇華させたかを見てるってことですね。いやー、難しいなあ(笑)


なかなか難しいのは基礎デの基礎造形で、
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【問題】 『東京』から想起されることを、幾何学図形で構成し、描きなさい。
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という出題で、条件に「『東京』という文字を使うということではない。」とあるんです。
これをストレートに読むと「『東京』という文字を使ってはいけない」ですが、それならそう書くわけで、あえて「ということではない」と書いてあるってことは「これは『東京』という文字ではなく『東京』という空間や文化から想起されるものを描けってことで、『東京』という文字を画面に入れちゃいけない、って意味ではない」と読み取れなくもない。
ま、「そう読み取れなくもない」であって、自分が受験生だったら「東京」って文字は怖くて使わないかな。

また、油絵学科の試験等では問題文に「机上のモチーフを自由に描きなさい」としか書かれてないことが多いです。
でも、この「自由に」がクセモノで。
デッサン試験だし、目の前にモチーフが組まれてるのでつい 「見たまま」を描いてしまいそうですが、「自由に」から「そのままを描くのではなく、現象や印象を自分なりに解釈し発展させ、それを自分なりに構成して自由に表現しなさい」と言われてるんですね。
この「自由に」を読み飛ばしてしまうと、たったそれだけなのに出題意図から離れてしまい点数が下がる、と。
昔はデッサンで「基礎力」を見て、デザイン等で「発想力」を見るのが一般的でしたが、今はその境目がなく、ただうまくきれいに絵が描ければいい時代ではなくなってます。

というわけで、「問題文をちゃんと読もう」の2つめの意味は「問題文に隠されたヒントを探し、そこから自分なりに発想を広げよう。」
逆にどうにでも取れる問題文はどう解釈してもいい、むしろ出題者の想定を超える作品を作ってほしい、という意図があるはずなので、そういう時はおもいっきりやっちゃってください。
責任は取りませんが。


20年前ぐらいの美大入試では、大量の受験生を手っ取り早く絞るために「いかに石膏像をうまく描けるか」「短い時間で手をそっくりに描けるか」等がポイントにありました。

これは中国・山東工芸美術学院の美大入試風景ですが、これだけ受験生がいたら「絵のテクニックがうまいかどうか」ですばやく判断するしかないわけで・・。
もちろん短い時間で描いたり、基礎的なデッサン力・デザイン力のトレーニングは大事だけど、それとは違った能力も見る傾向になってきてます。
あ、この写真で思い出した。関東の美大はどこもそうだと思うけど、イーゼルの場所はくじ引きで決めるので「早く行っていい場所確保」ってのはありません。


今の実技入試はこう考えた方がいいです。
「教員からのメッセージであり、最初の課題」

「この出題をあなたはどう解釈し、表現しますか? → 私たちはそれを理解できる(超える)人材が欲しいんです → そういう人のためのカリキュラムを用意してますよ」なメッセージが込められてるのが実技試験であり、そのまま3つのポリシー(アドミッション・カリキュラム・ディプロマ)になってるんですね。
大学関係者にわかりやすく書くならば、オープンキャンパスなどの経費は管理経費だけど、入試のモチーフ購入費は教育研究費なんです(笑)

「●●学科と■■学科の違いは?」と受験生に聞かれたら、「簡単に見分ける方法が2つあって、ひとつは入試実技問題(と出題意図)を比べること」と答えています。(もうひとつは時間がある時に)
なのでよく「美大実技は楽しんだもん勝ち」とよく言われますが、私もその通りだと思ってて、出題者とのやり取りをぜひ楽しんでください。


しかし、すごいと思いません?
問題文を理解し、更にそこから発想を広げ、独自性を入れ、アイデアスケッチをし、下書きをし、色を塗り、場合によっては文章もつける。ムサビのデザイン系だとこれを受験生は「3時間」でやり遂げてるんです。

美大・・特に東京の美大実技試験では、読解力、発想力、描写力、表現力、瞬発力、持続力、価値創造力、ストレス耐性、課題発見・解決力、体力がそこで問われます。
ある先生が「1時間もじっと座ってられない生徒が増えてるって言われてるのに、美大受験生は3時間とか6時間とかずっと集中して座れる人しかいないわけでしょ?それだけでもありがたいし、合格にしてあげたいよね」とおっしゃってました(笑)

2020年度から暗記型のセンター試験が廃止され、思考力・判断力・表現力を問われる新テストが導入されるのはご存知の通り。
「各大学は、従来の画一的な暗記型ペーパーテストから、アドミッションポリシーに基づく様々な評価方法を組み合わせ、受験者の学力を多面的・総合的に評価する入試へと転換することが求められているウンタラカンタン」と言われてるけど、とっくに美大では実技試験でそれをやってるし、それ以上のことをやってるんですよね。


以上、「文科省の人は有名理工系大学じゃなくて、ムサビやタマビの入試を参考にすればいいのに」と本気で思ってる手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹と西原理恵子とみうらじゅんと羽海野チカと銀魂と合体ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し日夜奮闘中